A.はい、特段の事情が認められれば入国できますし、様々な可能性があります。
新宿は高田馬場の入管業務専門の行政書士の辻です。
2021年11月30日から新しい水際対策が始まり、全外国人の入国が停止されたなんて報道がありますが、正確ではありません。
よって、サンタクロースが日本に入国できないということはありません。
それに関して、サンタクロースの在留資格の可能性を場合分けしながら、考察したいと思います。
なお、この考察では、サンタ業務に関する許認可(業としてプレゼントを配ることや、飛行物体の運行、トナカイの検疫など)は考えないものとしています。
また、この考察は完全なるフィクションですが、在留資格の大切なことに関して、色々教えてくれると思います。
では、行きましょう。
1、サンタクロースは日本国籍を持っている
まず、サンタクロースの見た目からその存在が外国籍の方であると推測するのは、完全なる偏見です。
帰化した方かもしれないし、日本人とのハーフかもしれないからです。
国籍法によれば、帰化すれば日本人ですし、日本人の子は当然ながら日本人です。
見た目がどうであれ、母国語が何語であれ、国籍法が日本人かどうかを決めています。
そして、日本人であれば日本に入国することは、どのような場合であっても可能です。
自国民が自国に入れる権利は、通常、国際的に認められた権利として有名です。
世界人権宣言第13条の2項は以下の通り定めています。
「すべて人は、自国その他いずれの国をも立ち去り、及び自国に帰る権利を有する」
また、自由権規約12条4項は、「何人も自国に戻る権利を恣意的に奪われない」と定めています。
そして、憲法第98条第2項においては、『日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。』と語っています。
ということで、自国民が自国に帰る権利をはく奪するのは、憲法違反である可能性が非常に高いと言わざるを得ません。
というか、そうじゃないと、国として成立しているか怪しい状態だと言わざるを得ないでしょう。
日本が民主主義国家を捨てる、もしくは、国連から脱退しあらゆる国際法規を守らないという政策をとるならば、日本人の入国を拒否しても良いかもしれません。
サンタクロースは実は世界中に散らばっているという仮定の下、各国には一人ずつその国の国籍を持っている特派員がいるならば、当然、日本人サンタクロースは日本に入国することが可能です。
2、サンタクロースは日本国籍を持っておらず、在留資格をもっている
さて、本丸はここです。
以下、サンタクロースの持っていそうな在留資格別に場合分けして、考察します。
ここで重要なのは、入管が出しています上陸拒否についての特段の事情というものです。
この解説は、誰かがやっているはずなので、ここではリンクだけ張っておきます。
(新型コロナウイルス感染症の拡大防止に係る上陸拒否について←PDF直リンク2021年12月1日更新)
A.新規入国も出来る特段の事情が認められる類型
①公用
サンタクロースの活動は非常に公益性が高いと言わざるを得ません。
ゆえに、国際的に認められたサンタクロース協会からの特使であれば、在留資格「公用」が認められます。
公用は、特段の事情の中(2-(3))に明記されていますので、新規入国が可能です。
この公用で、上陸拒否がなされている最中に日本にいらっしゃった方で、最も有名な方はバッハさんでしょう。
オリンピック委員会という国際的に認められた団体からのオリンピック大会の視察ですから、当然に公用で入れます。
さらに言えば、バッハさんは『特別に』隔離期間も1回目は3日間、2回目は無かったのですから、サンタクロースの公用の場合も隔離期間は無いでしょう。
②外交
サンタクロースはフィンランドで有名な方ですから、もしかすると、フィンランドが国として世界中へ特使としてサンタクロースを派遣しているかもしれません。
この場合は、在留資格「外交」が認められます。
そして、外交も特段の事情の中(2-(3))に入っていますので、新規入国が可能です。
外交官は様々な特権を持っているところ、隔離免除まではいかないとは思いますが、大使館の中にいる限りは、それに近い扱いは受けられるはずです。
③日本人の配偶者、永住者の配偶者、定住者の家族の定住者、家族滞在
いわゆる身分系と言われる在留資格においては新規入国が認められています(2-(2)イ、ウ、カ)。
なお、定住者は非常に難しい在留資格ですが、サンタクロースが持っていそうなものは、永住者の子供だが永住者になる前に生まれた子供と、日系2世・3世くらいです。
ちなみに、新規入国が認められている定住者は、「定住者告示」に記載されているものだけですので、1~8号までしかありません。
定住者は告示外定住という類型もあって、勉強するととっても面白い在留資格です。
家族滞在は、サンタクロースを扶養する配偶者がいる必要があります。
(通常は子供も認められますが、サンタクロースの年齢が相当上であることを考えると、扶養を受ける子供の線は無いでしょう)
ただ、サンタクロースって結婚してるのか?と言われると、「たぶん独身なはずだ」と思い、これら身分系は論調が音を立てて崩れていきます。
【2021年12月1日追記】
本日より、残念ながら、家族滞在の新規入国者には特段の事情が認められなくなりました!
よって、サンタクロースが家族滞在の場合は、新規入国が出来ません。再入国は可能です(フィンランド経緯なら)。
④特定活動
サンタクロースの業務は非常に特殊であって、さらに子供たちの夢を壊さないという公益性もあるので、法務省が特別に在留資格を認めるかもしれません。
その場合は、特定活動という個別具体的に定められたものになります。
東京オリンピック2020の関係者は、何万人という数でしたが、ほぼ全てこの特定活動です。
(中には「報道」とかでいらっしゃった方も存在するかもですが、その場合も特定活動にしたと思います。)
オリンピックという公益性が高い(もちろん、利権も守るための)イベント関連の方は、特段の事情が認められます。
もちろん、隔離期間は通常通りです。
検疫法に基づく隔離は、14日間を原則として、ワクチン証明書がでる国から来れば、10日となります。
(ちなみに、フィンランドは、ワクチン証明書を用いることが出来る国に該当しています)
ですから、サンタクロースの場合は、12月15日には入国しないと、25日に仕事は出来ません。
ここまでが新規入国が認められている特段の事情を持っている在留資格で、サンタクロースが持っていそうなものでした。
ちなみに、サンタクロースが持っていなさそうな在留資格で、特段の事情により新規入国できるのは、「医療」と「教育」「教授」で入国の必要があるものです。
B.新規入国は出来ないが、再入国が認められる類型
さて、特段の事情の中には再入国者が入っています(2-(1))。
これは、先ほどの世界人権宣言と自由権規約の「自国に帰る権利」という『自国』が現在の居住国でもあるという広い解釈が国際的には一般的だからです。
特に、自由権規約委員会は1999年に採択した一般意見で「自国」は国籍国の概念より広いとしています。
ちなみに、日本は一時期(2020年夏ごろ)は、通常の再入国者だけではなく、永住者であっても再入国を認めていなかった時期があります。
さすがに、これは常識的な判断ではないので、後に変更し、再入国を特段の事情として認めたという経緯があります。
【2021年12月1日追記】
なんと、この日、南アフリカの特定国を経由した再入国者は日本に入国が出来なくなりました(ただし、永住者、日本人・永住者の配偶者、定住者は大丈夫です)。
さて、サンタクロースが再入国しようとする在留資格を持った外国籍の方であるとするとどうなるのでしょうか?
⑤永住者(特別永住者)
サンタクロースは往々にしてお年を召された方であることが多いので、もしかすると、日本での在留資格「永住者」を取得している可能性はあります。
とすれば、再入国許可(最長5年有効)、もしくはみなし再入国許可(1年有効)をもって出国していたが、クリスマスの時期に日本へ再入国するということになります。
再入国者の隔離期間は、他の日本人の帰国者や新規入国外国籍の方と同じです。
なお、俗にいう永住権という権利は、日本においては設定されておらず、永住者とは期限の定めなく日本に居ることを許可されているだけです。
これは、通常禁止されている行為を特別に許可するものですので、行政法上は「免許」と呼ばれるもので、自動車運転免許のようなものです。
自動車運転免許は、自動車を運転してもいいよという許可であって、『自動車運転権』とは誰も考えないように、永住者も許可であって、権利ではありません。
ちなみに、特別永住者の場合は、再入国許可とみなし再入国許可が通常より1年長いのですが、サンタクロースは毎年戻ってくるので関係はありません。
⑥技能
サンタクロースはトナカイという飛行物体のパイロットだという解釈が成り立ちます(ツッコミどころは満載ですが…)。
この場合は、在留資格「技能」が該当します。
技能は、基準省令という所に詳細な基準が記載されています。
基準省令の技能の欄の7号に、「航空機の操縦に係る技能について二百五十時間以上の飛行経歴を有する者で、航空法(昭和二十七年法律第二百三十一号)第二条第十八項に規定する航空運送事業の用に供する航空機に乗り組んで操縦者としての業務に従事するもの」と記載があります。
⑦興行
サンタクロースの主たる業務が、もし、デパートとかで子供を膝にのっけて写真を撮るとか、人集めて何かをやるイベントである場合は、在留資格「興行」となります。
いわゆるテレビに出るような芸人さんは、みなさん興行です。
どの芸能事務所に属しているのか、非常に気になりますが、やはり、有名なあそこでしょうか…。
なお、音楽ライブイベントで特段の事情が認められて入国できたミュージシャンがいらっしゃいましたが、興行で入国したのでしょうか?
どのような公益性が認められたのかが、非常に気になるところですよね。はてさて。
話をサンタクロースに戻しますが、興行の場合はプレゼント配布業務が主たる業務ではなく、臨時的に人手不足だからやる業務ということになってしまいますので、それはそれですごくモヤモヤします。
⑧技術・人文知識・国際業務
サンタクロース大学というのがあるようです。Charles W. Howard Santa Schoolとは何か←リンク
この大学を卒業して「学士」を取得して、日本では事務員としてデスクワークをしているなら、在留資格「技術・人文知識・国際業務」も出来ます。
デスクワークしているサンタクロースは、ちょっと想像したくないものですが…。
さらに、この場合もやはりプレゼント配布業務は、臨時的に人手不足だからやる業務ということになります。
時々、「技術・人文知識・国際業務」を持っている方が、荷物の搬入をしたり、工場のラインに入ったり、料理をしたりする場面に出くわしますが、あれは全て臨時的に人手不足で仕方ないからやっているはずのものです。
もし万が一、それが常態化している(日に1時間必ず搬入するとかの)場合は、それは不法就労活動ですので、明らかに非専従資格外活動罪が成立します。
そして、雇用者には不法就労助長罪が適用されますので、お気を付け下さい。(あれ、何の話でしたっけ??)
【2021年12月1日追記】
⑨宗教
クリスマス自体はキリスト教系のお祭りです。イエス・キリストの誕生を記念した祝日ですから。
是非、この時期は教会に行ってみるのも良いと思いますよ(あからさまな宣伝です)
さて、ということは、サンタクロースはキリスト教会の神父さん(もしくは牧師さん)である可能性があります。何せ聖人ですから。
ただし、プレゼントを配るという行為が純然たるミサ(もしくは礼拝)と認められるかどうかは非常に怪しい所ではあります。
といっても、配布業務は無報酬のボランティア活動だという仮説は蓋然性が高いので、問題はありません。
[というか、私自身が牧師なのに、この在留資格を書き忘れていたことに、大いに反省しています。]
⑩番外:短期滞在
サンタクロース業務が完全にボランティアで行われているとすれば、在留資格「短期滞在」である可能性があります。
ただ、短期滞在は旅行者と同じ在留資格ですから、さすがに特段の事情が認められるケースはありません。
よって、この場合は、サンタクロースは入国が出来ないということになります。
よく、町中を旅行カバンを持った外国籍の方を見かけると旅行者が入国してる!とざわざわする方がいらっしゃいますが、
安心してください、その方は、日本に住んでいる居住者です。あなたと同じです。
ちなみに、去年サンタクロースは良い子のもとに来たことは記憶に新しいところ(私の家に来たかどうかは秘密)ですから、つまり、短期滞在の線は無いということです。はい。
もし、あなたの家にサンタクロースが来ていないとすれば、それは何かの間違いか、もしかすると良い子では・・・ということです。
3、サンタクロースは日本の国籍を持っていないし、在留資格も持っていない
①日米地位協定(SOFA)に基づく在日米軍の現役兵士
在留資格を持っていないからと言って、不法滞在であるとは言えません。
そこにも例外があります。
それがSOFAに基づいて日本に在留していらっしゃる米軍の兵士さんたちです。
彼らは上陸審査なしに日本に入国(正確には米軍基地に入る)できますし、在留資格がありませんので在留カードもありません。
サンタクロースが米軍の兵士だなんて、ちょっと現実的過ぎますけど、米軍のヘリやドローンを用いて、プレゼントを配るのを想像するとなんだか納得できます。
②不法入国者
はい、もう密かにやってきて、密かにいなくなる。
不法入国し、12月25日の1日だけ不法滞在しているという仮説です。
でも、サンタクロースって聖人でなければいけないので、さすがに不法滞在という入管法違反はしないでしょうね。と、信じたいところです。
4、まとめ
最後まで付き合ってくださった読者の方には、本当に脱帽いたします。
笑いあり涙あり、そしてたっぷりの皮肉でお送りいたしましたQ&Aでした。
さて、今年もサンタクロースは日本の各家庭に無事にいらっしゃるのでしょうか?
それは、もしかするとサンタクロースの持っている国籍や在留資格に、大きく左右されるのかもしれませんよ。
では、お疲れ様でした。