2、政府が「特定技能」始めるってよ
政府は2019年4月の施行を目指している入管法改正において、新しい在留資格をもうけることを議論しています。
その目的は慢性的な人手不足を解消するためであるようです。
ちなみに、これは政府案であって、国会を通るかどうかは、まだ不透明であるのは忘れてはなりません。
もちろん、政府は国会で過半数を有する与党なので、よほどのことが無い限り政府の計画通りに事が進みますが…。
さて、特定技能は、以下のような流れで用いられるようです。
『技能実習 ⇒ 特定技能1号 ⇒ 特定技能2号』
A.まずは、技能実習制度を見て見るべよ。
ニュースで見かける技能実習制度は、だいたい低賃金で労働条件も悪く、自殺者が出たり、逃亡者がでたりするものです。
最近、問題になったドキュメンタリー番組でも、強制送還となった外国人は技能実習から逃げてきた方でありました。
もちろん、きちんとした形で外国人を雇っている技能実習先もあります。
では、そもそも、技能実習制度とは、いったい何なのでしょうか?
まず、技能実習制度を、公益財団法人である国際研修協力機構(通称:JITCO ジツコ)がこう言っています。
少し長いのですが、引用します。
『技能実習制度の目的・趣旨は、我が国で培われた技能、技術又は知識(以下「技能等」という。)の開発途上地域等への移転を図り、当該開発途上地域等の経済発展を担う「人づくり」に寄与するという、国際協力の推進です。
制度の目的・趣旨は1993年に技能実習制度が創設されて以来終始一貫している考え方であり、技能実習法には、基本理念として「技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」(法第3条第2項)と記されています。』
へ~、国際協力の推進として、技能実習制度はあるわけですね。
そして、2行目が極めて重要ですね。
基本理念として、「労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」と書かれています。
ん?あれ?ちょと変じゃね?
おかしいなと思われた方、普通の感覚をお持ちです。
政府の説明では、人手不足を解消するために「特定技能」ビザを作るのですよね、ん?、、ちょ、ちょっと待てよ!(キムタク風)
技能実習 ⇒ 特定技能1号
この流れがあったはずですよね?
「技能実習」は、労働力の需給の調整ではない、が、しかし、その次に繋がっている「特定技能」は、労働力の供給のために新設されるんです。
おっと、小中学生でもわかりそうな矛盾ですよね。
このふたつが繋がっていることには、技能実習の基本理念が既に建前化していて、事実は、労働力の供給となっているという技能実習制度の「闇」があるわけです。
たしかに、このような現状を打開すべく、政府は2016年「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(技能実習法)」を作り対応して来ました。
悪徳なブローカーを排除すべく働いているのですが、未だに多くの問題を抱えているのが技能実習制度なのです。
ちなみに技能実習ビザにおいて最長5年たつと、更新は認められず、日本にはいられません。
そりゃそうです、基本理念として、発展途上地域の経済発展を担う「人づくり」が建前なので、本国に戻って日本で得た技能を使ってくれないといけないからです。
いつまでも日本で働いていては、本国の発展のためにならないから、5年以上の更新は認められません。
ちなみに、これは日本料理の調理師として、技能実習を行い5年経ったら本国へ帰国して日本料理レストランを作る制度にも、同じ趣旨が適用されています。
B.特定技能1号ってなんじゃらほい?
さて、特定技能1号に移りましょう。
技能実習から上がってくることが出来るのは、私は甚だ奇妙な現象だと考えますが、ちょっと今は目をつぶります。
上がる時に日本語と技能の試験があるようですが、噂によると日本語能力試験4級だということです。
この日本語能力4級は、いうならば、英検4級と同じようなレベルだと思ってください。
英検4級の人が、英語が母国語の国に行って、生活できると思いますか?
はい、無理です。
これは、ほとんど何も話せませんし、理解できないレベルです。
日本での日常的な生活を営む日本語レベルでは、到底ありません。
そんなレベルで、日本に来ることが出来て、様々な分野で働くというのも、きわめておかしい話です。
1号における在留期間は5年であって、家族の帯同は不可とされています。
労働力の供給のためのビザですから、家族の帯同を不可にしている理由はなんとなく理解はします。
しかし、5年だけの使い捨て感は否めない事実です。
もし配偶者がいる場合に、5年もの間出稼ぎに出かけるという話は、一昔前ならまだしも、今日において人権侵害だと言われるのは当たり前でしょう。
しかも、技能実習で5年、特定技能1号で5年、日本に在留すると10年日本に在留することになります。
普通の就労ビザにおいて、10年以上にわたって日本に滞在すると、永住者申請の条件のひとつを満たします。
しかし、この特定技能では、永住者申請の権利は与えられない運用のようです。
これでは、日本にせっかく働きに来て、日本に10年も家族から離れて生活し、まさに日本に定着しているのにもかかわらず、永住者として申請する権利さえ与えないのは、もう理不尽としか言いようがありません。
C.特定技能2号って事実上の永住可能って本当っすか?
そして、さらに日本語と技能の試験を経て2号となるようです。
ここでは家族の帯同も許されるようになります。
しかも、5年だけで終わりのビザではなく、更新も認められるとのことで、やっとこさ、他の就労ビザと同じ条件で働くことが認められるようになるみたいです。
しかし、更新は認められるようですが、永住者申請はできないとの算段が強いです。
政府説明では、特定技能制度は、移民政策ではないという建前を守るために、私の考えでは永住者申請の権利は認められない、のではないかと考えます。
各社新聞では、実質的に永住が可能という表現がなされる場合が多いのですが、それはビザ的な永住ではありません。
永住者が持つ権利、保護を全く受けることなしに、永住可能なんて言えるわけがありません。
ここだけは、すべての人に広く知ってもらいたい事実だと思います。
永住者ビザ以外では、永住とは言えないということです。
仕事を首になれば、もう、ビザの更新はできず、日本に滞在することは出来なくなってしまう非常に弱い立場でずっと滞在しなければならないわけです。
日本に10年以上住んで、日本の社会に大きな寄与をしている労働者である外国人に、永住者申請を認めないとは、どういうことなのでしょうか?
しかも、法務大臣の話によれば、日本において労働者が必要無くなった時点で、ビザの許可を停止するということまで話が出ています。
これは、自国の都合主義による、外国人労働者の使い捨て以外の何物でもありません。
確かに、外国人をどのように扱うか?は政府の広い裁量に任されています。
憲法で書かれている人権は、外国人にも等しく及びますが、日本国民との差を設けることは、ある程度までは違憲となりません。
さて、この特定技能の制度が、外国人の権利と日本人の権利との区別化の許容範囲内なのか、どうなのか?
それには、慎重な判断がなされなければなりません。
そして、最終判断者は、最高裁判所だということです。
政府でも、行政でも、国会でもありません。
私は、人権派の弁護士たちが、新しい入管法の違憲裁判をするのではないか?とまで考えています。
もし、社会保障も全く保証されない感じで、政府案のまま入管法改正となった時には、ぜひ弁護士の方々に戦っていただき、最高裁判例を作っていただきたいと考えます。
D.結論として
私は行政書士に過ぎない立場ですから、立法の立場でも、司法の立場でも、行政の立場でもありません。
なので、決められた法とその解釈の中で、行政府と共に生きるしかない立場です。
入管法が改正となって、新しい在留資格ができると、行政書士としては業務のバブルがやってくることでしょう。
恐らく、この新しい制度にかかわって、大きく儲かる行政書士の方々が出ると予想できます。
例えば建築業界は、すでに行政書士業務の大きな柱の一つですから、建築業界に係る先生たちは、仕事が増えます。
しかし、特定技能制度が、外国人の人権を極度に踏みにじるものであるならば、一人の日本国民として、戦い続ける必要があると考えます。
もちろん、まだ政府案の段階です。
外国人たちに対する社会保障をどのようにするか?永住者ビザは認めるのか?そうでなくても、定住ビザは認めるのか?
様々な要素が絡み合って、考えなければならない事案でしょう。
私は、良い方向へ変更されていることを望みます。
最低限、特定技能者にも、他の就労ビザにおいて在日している外国人と同じように、永住者、もしくは定住者の申請の権利を認めるべきだと思います。
すでに、基本理念が崩れ去った技能実習制度の上に、特定技能制度を新設しただけでは、根本的な問題の解決にはならないでしょう。
政府、そして国会には、もっと活発な議論と、外国人の人権を守るような法制度を打ち立ててほしいと考えます。
これは移民を受け入れる入れないという議論の前に、まず外国人を人として受け入れるという基本的な問題です。
きちんとした形で、決着を見て見たいと切に祈っております。