こんにちは、新宿は高田馬場の入管業務専門の行政書士の辻です。
外国人の方が転職・退職をしたとき、「会社は変わったけど、在留カードはそのままだし、次の更新のときに説明すればいいですよね?」と聞かれることがあります。
今日は、その「次の更新のときに説明すればいいですよね?」が、あとで思ったより強めのカウンターパンチになって返ってくることがある、という話です。
少し、生々しい話から始めます。朝から読むには少し胃に重いかもしれませんが、大事なところです。
永住申請をして、長い時間待った末に不許可になった方がいました。年収は十分。税金や社会保険料の納付状況も問題なし。提出書類も、見える範囲ではきちんと整っている。正直、「なぜ不許可なのか」がまったく分からない案件です。
そこで、入管へ不許可理由を聞きに行きました。
理由は、一言でした。
「届出、出していないです。」
それだけです。2年弱待って、やっと出た結果が不許可。理由を聞きに行っても、言われたのは「届出を出していない」という一点だけ。不許可理由が書かれた書面も、分厚いファイルではありません。ペライチに近い、うっすいファイルです。厚さだけ見れば、コンビニのレシートの方がまだ存在感があるかもしれません。
年収も、税金も、在留期間も、家族状況も、どれだけ整えていても、届出一つで時間もお金も無駄になることがあります。これが、入管手続きの怖いところです。大きな岩ではなく、小石につまずいて転ぶ。そういう種類の怖さです。
結論から言うと、転職・退職をしたときは、在留資格によっては、入管に「所属機関に関する届出」をする必要があります。
しかも、原則として届出事由が発生した日から14日以内です。
この届出、地味です。ものすごく地味です。行政手続界の「地味だけど、いないと困る係」です。ですが、あとから更新申請や永住申請の場面で効いてくることがあります。今日は、この「地味だけど怖い届出」について整理しておきます。
1、転職・退職したら入管への届出が必要な場合があります
A.「所属機関に関する届出」とは何か
所属機関に関する届出とは、外国人本人が、勤務先や学校などの所属先に変更があった場合に、出入国在留管理庁へ届け出る手続きです。要するに、「私の所属先、変わりましたよ」と入管に知らせる手続きです。
たとえば、在留資格「技術・人文知識・国際業務」で働いている方が会社を辞めた場合、新しい会社と契約した場合、会社名や所在地が変わった場合などが典型例です。
技術・人文知識・国際業務、高度専門職1号イ・ロ、研究、介護、興行、技能、特定技能などの在留資格については、契約機関との契約終了や新たな契約締結があった場合、14日以内に届出を行う必要があります。
B.会社を辞めたとき、新しい会社に入ったときは別々に考える
実務上、よく混乱するのがここです。地味な手続きほど、こういうところで急にややこしい顔をしてきます。
転職をした場合、単に「転職しました」と1回だけ考えるのではなく、通常は次の2つの出来事があります。
1つ目は、前の会社との契約が終了したこと。
2つ目は、新しい会社との契約を締結したこと。
このため、退職日と入社日がある場合には、それぞれの事実に対応して届出が必要になることがあります。「更新申請のときに新しい会社の資料を出すから大丈夫」という話ではありません。更新申請は万能の懺悔室ではないのです。
ただし、ここは少しだけ実務上の補足があります。契約の終了と、新しい契約の開始は、制度上は別の出来事です。別のプロセスとして考える必要があります。ですが、紙の届出書などでは、退職と入社を同時に届け出ることができ、結果として1回の提出で足りる場合もあります。
つまり、「終了と開始は別物。ただし、出し方としてはまとめて出せる場合がある」という理解が一番安全です。ここを雑に考えると、「転職したことは伝えたつもりだったけれど、前職の終了届出が抜けていた」ということが起こります。本人としては引っ越し完了の気分でも、入管の帳簿上はまだ前の家に靴が置きっぱなし、みたいな状態です。
在留資格の更新申請と、所属機関に関する届出は、別の手続きです。
2、14日を過ぎたら、もう出さなくてよいのか
A.遅れていても、気づいたら速やかに出す
「14日を過ぎてしまいました。もう届出しなくていいですか?」という相談もあります。
この点について、入管庁のQ&Aでは、所属機関に関する届出をしていないことが判明した場合は、速やかに届け出るよう案内されています。
つまり、14日を過ぎたからといって、放置してよいわけではありません。むしろ、気づいた時点で出す。ここが大事です。寝坊したからといって、そのまま一日中布団にいるわけにはいかないのと同じです。
出典:出入国在留管理庁「所属機関等に関する届出・所属機関による届出Q&A」
B.「更新できたから大丈夫」とは限りません
ここは、本当に、本当に大事なところです。
過去に届出をしていなくても、在留期間更新が許可されることはあります。では、それで完全に問題が消えるのかというと、そう単純ではありません。更新で一度通ったからといって、過去の届出漏れがきれいに成仏するわけではないのです。
更新申請は、その時点での在留状況や活動内容、収入、納税状況、勤務先の状況などを総合的に見て判断されます。そのため、1回更新が通ったからといって、過去の届出不備が将来まったく見られない、という保証にはなりません。
特に、永住申請のように過去の在留状況を広く確認される手続きでは、「これまで適正に在留してきたか」という観点が重要になります。届出の履歴は実際に見られます。そして、必要な届出をしていないことが分かると、不許可になります。
3、届出をしないと更新・永住で不利になるのか
A.外国人本人の届出義務には注意が必要
外国人本人が行う所属機関に関する届出について、入管庁Q&Aでは、届出をしなかった場合や虚偽の届出をした場合には罰則が規定されており、在留諸申請で不利になる場合もあると説明されています。
ここでいう「在留諸申請」とは、在留期間更新許可申請、在留資格変更許可申請、永住許可申請など、入管に対して行う各種申請を広く指すものと考えてよいでしょう。
在留期間更新については、現時点では、所属機関に関する届出をしていなかったことだけで直ちに不許可になる、という運用まではあまり見ません。実務上も、遅れて届出を出し、事情を説明したうえで更新が許可されているケースはあります。
しかし、永住申請は別です。永住申請では、これまでの在留状況がかなり厳しく見られます。届出をしていないことが確認されると、実務上は不許可になると考えてください。少なくとも、「まあ更新できていたから永住も大丈夫でしょう」とは、とても言えません。
さらに言えば、いまは14日以内という期限を守っていなくても、遅れて届出をすれば許可されているケースがあります。ただ、これは将来もずっと同じとは限りません。そのうち、「14日以内に届け出ていないので、適正な在留状況とは評価できません」と厳しく見られる可能性は十分あります。入管実務は、ある日突然、昨日までの空気を忘れたような顔をすることがあります。
だからこそ、「届出をしていないけれど、まあ大丈夫でしょう」と軽く考えるのは危険です。特に永住申請を考えている方は、過去の届出履歴を一度きちんと確認しておくべきです。
B.会社側の届出と本人側の届出は別物です
もう一つ、よくある誤解があります。
「会社がハローワークに外国人雇用状況届出を出しているから、本人は何もしなくてよいですよね?」というものです。気持ちは分かります。どこかに何かを出しているなら、全部まとまっていてほしい。人類の素朴な願いです。
会社側にも、外国人を受け入れた場合や受入れが終了した場合の届出があります。ただし、会社側の届出と、外国人本人の所属機関に関する届出は、制度上は別のものです。
会社が何か手続きをしているからといって、本人側の届出義務が当然に消えるわけではありません。ここを混同すると、あとで「本人の届出が出ていませんね」という話になりかねません。出したはずなのに出ていない。入管手続きで一番心に悪いタイプのすれ違いです。
なお、所属機関による届出については、入管庁は、届出を行わなかったとしても刑罰はない一方で、外国人の在留期間更新等の許可申請時に事実関係の確認を行うなど審査を慎重に行うことがあると説明しています。
4、どんな人が特に注意すべきか
A.技術・人文知識・国際業務で転職した人
一番多いのは、技術・人文知識・国際業務で働いている方の転職です。
技術・人文知識・国際業務は、会社との契約に基づいて専門的・技術的な業務などを行う在留資格です。そのため、どの会社で、どのような業務をしているのかが重要になります。
転職した場合、前職の退職、新職への入社、業務内容の変化などを整理しておく必要があります。届出だけでなく、必要に応じて就労資格証明書交付申請を検討した方がよいケースもあります。「転職しました、以上です」で終わらないところが、技術・人文知識・国際業務の面倒で、そして大事なところです。
B.高度専門職で勤務先が変わった人
高度専門職の方は、特に注意が必要です。
高度専門職は、勤務先、職務内容、年収、学歴・職歴との関係などを前提として許可されている在留資格です。そのため、勤務先が変わる場合には、単なる所属機関に関する届出では終わりません。原則として、在留資格変更許可申請が必要です。名前は「高度」ですが、手続きの難度もなかなか高度です。
ここを「普通の技術・人文知識・国際業務の転職」と同じ感覚で処理してしまうと危険です。高度専門職の方が転職する場合は、転職前から、変更申請のタイミング、必要書類、ポイント計算、在留カードの受け取り時期まで含めて準備しておく必要があります。
また、永住申請を見据えている方は、なるべく転職期間が0日になるような転職を目指してください。高度専門職ポイントを使って永住申請をする場合、ポイントの継続性が問題になります。退職日と入社日の間に空白があると、その期間のポイント評価に影響する可能性があります。
高度専門職の転職は、「届出だけで終わり」ではありません。変更申請まで含めて設計する必要があります。
C.家族滞在・配偶者系の在留資格の方
所属機関ではありませんが、家族滞在、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等の在留資格で、配偶者として在留している方は、離婚や死別をした場合に「配偶者に関する届出」が必要になることがあります。
こちらも、事由が生じた日から14日以内です。就労系の転職届出とは別の制度ですが、「身分関係が変わったときも届出が必要になる場合がある」と覚えておいてください。
5、実務上のチェックポイント
A.転職・退職があったら、まず日付を確認する
届出で最初に確認すべきなのは、日付です。入管手続きにおいて、日付はだいたい主役です。脇役の顔をして、最後にすごい存在感を出してきます。
退職日、新しい会社との契約日、入社日、会社名や所在地の変更日など、どの日に何が起きたのかを整理してください。
「たぶんこのくらい」ではなく、雇用契約書、退職証明書、辞令、会社からの通知などで確認するのが安全です。
B.届出の履歴を残しておく
届出は、できる限りインターネットで行うことをおすすめします。インターネットで届出を行う場合、届出履歴や処理状況を確認できます。あとから「いつ、何を届け出たのか」を確認しやすいからです。
紙で提出する場合は、申請書のコピーを残すだけでは足りません。コピーが手元にあっても、それは「作成した証拠」にはなりますが、「入管に届いた証拠」としては弱いからです。家で書いたラブレターと、相手に届いたラブレターは別物です。
郵送で提出する場合は、少なくとも特定記録郵便など、入管庁に到着したことを確認できる方法で送り、送付記録を残してください。可能であれば、提出した届出書のコピー、封筒の宛名、郵便局の控え、追跡番号、到着履歴を一式で保存しておくと安心です。
数年後の永住申請で、「このとき届出をしましたか?」と確認することがあります。そのときに記録が残っているかどうかで、説明のしやすさがまったく変わります。
C.わからないときは、放置しない
届出が必要かどうか分からない。14日を過ぎてしまった。昔の転職について届出した記憶がない。
こういう場合、一番よくないのは放置です。必要な届出であれば、遅れていても速やかに出す。事情があるなら、事情を整理しておく。将来の申請で説明できる状態にしておく。見なかったことにしても、入管手続きはなかなか見なかったことにしてくれません。
入管手続きでは、「何もしていない」より、「遅れたが、気づいて対応した」ほうが説明しやすいです。
6、よくある質問
Q1. 14日を過ぎたら不許可になりますか?
在留期間更新については、14日を過ぎたことだけで直ちに不許可になるケースは、現時点では多くありません。遅れていても、気づいた時点で速やかに届出をしてください。
ただし、永住申請はかなり厳しく見られます。届出をしていない状態で永住申請をすると、実務上は不許可です。ですから、「もう遅いから出さない」ではなく、「遅れてもいいので、まず出す」と考えてください。
Q2. 会社が手続きしていれば、本人の届出は不要ですか?
不要にはなりません。所属機関に関する届出は、外国人本人がするべき届出です。会社が外国人雇用状況届出などをしていても、本人の届出義務が消えるわけではありません。
また、この届出は本人が行う手続きです。会社が代わりに行うことはできませんし、行政書士が本人の代理人としてオンラインで代わりに届出をする、という扱いでもありません。会社や専門家ができるのは、必要性を案内したり、書き方を確認したり、本人がきちんと届出できるようにサポートすることです。
Q3. 転職予定ですが、先に届出できますか?
未来日を届出事由発生日とする届出はできません。実際に退職、契約終了、新しい契約締結などの事実が発生してから届出を行います。
Q4. 永住申請前に過去の届出漏れが見つかりました。どうすべきですか?
まず、いつ、どの会社で、どのような変更があったのかを整理します。そのうえで、必要な届出が未了であれば速やかに対応し、永住申請時に説明できるよう資料を整えておくことが大切です。
まとめ:届出は地味ですが、あとから効いてきます
転職・退職時の入管への届出は、派手な手続きではありません。許可通知が出るわけでもなく、在留カードが新しくなるわけでもありません。提出しても、達成感はかなり薄いです。
だからこそ、忘れられがちです。地味な仕事ほど、できていて当然、できていないと大事件。だいたい世の中そういうものです。
しかし、入管手続きでは、こういう地味な義務をきちんと守っているかが、あとから重要になることがあります。特に更新申請や永住申請では、過去の在留状況が見られます。
更新申請では、届出漏れがあっても、それだけで直ちに大きな問題にならないことはあります。ですが、永住申請は別です。永住申請では、「これまで適正に在留してきたか」が正面から見られます。届出をしていないことが分かると、一発で不許可になると考えてください。
転職した。退職した。会社名が変わった。会社が合併した。分社化した。配偶者と離婚した。
そうした変化があったときは、「在留資格に関係する届出が必要ではないか」を一度確認してください。
特に、会社の名称変更、合併、分社化などは見落とされがちです。本人としては「同じ場所で、同じ仕事をしている」という感覚でも、入管手続き上は所属機関に関する届出が必要になる場合があります。看板が変わっただけ、と思っていたら、手続き上はちゃんと事件だったりします。
「更新のときに言えばいい」ではなく、必要な届出は必要な時期に行う。
これが、将来の申請を守るための、いちばん地味で、いちばん大事な下ごしらえです。料理でも、下ごしらえを飛ばすと最後に味が決まりません。入管手続きも、だいたい同じです。






